doramaちゃんねる★色声機械メインです
色声機械*62
心の片隅でいつも貴方を想っていた
ロボと連絡を取らなくなって、もう5年。
未練たらしく、いつまでもあるロボのアドレス。
時々開いては、発信ボタンを押そうか迷ってみたり・・・
でも勇気のない私は出来なかった。
「明日はニコの二十歳の誕生日ね~。ケーキはいつものお店でいいかしら?」
「いいんじゃない?店長、オマケしてくれるし」
台所の側を通ると、一人暮らしのアパートから遊びに来ていた一海ちゃんとお母さんの声がした。
あの日・・・あの14歳の誕生日以来ケーキは決まってあのお店。
今でも家族で店長さんとは仲良くさせてもらってるから。
思い返せば、あの頃は無我夢中で、全てに一生懸命だったきがする。
――――イツカラ勇気ガナクナッタノ?
部屋に戻り、ベッドに倒れこんだ。
あの3ヶ月は今でも鮮明に思い出せる。
あの頃たいして興味なかった恋愛も少しはしてみた。
だけど、ごぼ蔵みたいに全力疾走する様な恋愛には出会えない。
『二湖は冷めてるよな』
初めて付き合った彼に別れ際に言われた。
私自身そんなつもりはなかったのに。でも・・・そう思われてたんだ。
それから恋することに臆病になってきた。
初めて付き合った彼と別れてから、恋愛から遠ざかる様にしてきた。
なのに明日で二十歳。
「このままじゃダメ・・・だよね」
いつまでもあるアドレス。
未練たらしい自分。
前に進めない自分。
私は押し入れを開けると、奥から箱を取り出した。
そして目当ての物を手にし、携帯を掴んで飛び出した。
行き先はひとつ。
今でもあのアパートに住んでいる事を願って――――
カンカンカンカンッ!
踏み慣れたリズムで階段を掛け上がる。
登った先の一つめ。その扉の表札をゆっくりと見た。
『須藤』
「か・・・変わってなかったぁ」
安堵の溜息と同時に『どうしよう』と緊張が押し寄せた。
今の自分が嫌で、明日二十歳になるまえにけじめをつけたくて。
ただそれだけでここまで来た私はずっと手にしてた、お面を見つめた。
あの時の皆の勇気を少しでも分けて欲しくて。
「~♪」
遠くから歌が聞こえる。
毎日の如く聞いたあの歌。
ドキドキドキ・・・
緊張で胸が高鳴る。
そして歌声とカンカンと階段を登る音が重なる。
「マーックスロ~・・・ん?」
足音が止まる。
お面を握る手が汗ばむ。
そしてゆっくりと立ち上がり、顔を上げた。
「ろ・・・ロボ、私のこと覚えてる?」
やっとの思いで出た言葉は掠れ掠れだった。
見上げた先・・・ロボはあの頃のまんまだった。その表情は小首を傾げて、悩んでいる感じで。
だけど私の言葉を耳にした瞬間、表情は一変した。
「もっ、もっ、もしかして、ニコ?!」
ロボのその顔、声。すべてが懐かしくて。
私は溢れそうになった涙を手のひらで拭って、
「そうだよ。ロボ」
「相変わらず・・・凄い・・・」
部屋に上がると、たくさんのフィギュアとロボットにお出迎えされた。
「座りなよ~。あ、コーヒーでいい?」
スーツから変な部屋着に着替えながらロボが尋ねるから、『ありがとう』なんて言いつつも、そわそわ落ち着かない自分がいた。
「はい、コーヒーどうぞ」
コトンと正面に置かれたマグカップを見て唖然とした。
「・・・これ、とっといてくれたんだ」
手にしたのは、あの頃の私が『私専用だからね』と勝手に置いてったピンクのストライプのマグカップ。
「うん。だってニコのだから勝手に捨てちゃったらいけないだろ~」
ロボは私の正面に座り、コーヒーを啜った。
「あ…あのロボ、」
「ん?なぁに」
ニコニコと笑顔を浮かべて、私を見つめるロボ。その視線に私は、
「えっと、その・・・元気だった?」
あ~、いくじなしな質問をしてしまった。だけどそんな私の心情なんてつゆ知らず、
「元気だよー。ニコも元気そうだね。それにおっきくなったし~」
なんてやっぱりニコニコと笑顔だった。
「あれ~、それ。懐かしいね」
ロボは私の持っていたお面に気がついて、貸して貸してと手を伸ばした。
「あ…、うん」
お面をぎゅっと握りしめて、ロボへと渡そうとしたとき。
「ロボ・・・」
お面を受け取ろうと腰を浮かせたロボが止まる。
「本当はロボに会いたかったの。だけど・・・」
涙が滲んで視界が揺れる。
声も震えて、かっこわるいけどそんなのどうだっていい。
「連絡しなきゃって思えば想うほど、…出来なくて。ロボも私のこと忘れてたらどうしようって」
ロボの悲しそうな表情が一瞬揺れたように感じた。
「だから。だから私も前に進むために……でも、ダメだったの」
私の手が震えているせいで、赤いお面も震えていた。
一度小さく深呼吸をすると、ロボの方へと改めて向いた。
「いつも・・・ロボが私の心の中にいるの。あのころからずっと、ロボが好きだったの」
俯いてポロポロと溢れては流れ落ちる涙は、テーブルやコーヒーに落ちていく。
ロボは黙ったまま。
そうだよね、突然現れてこんなコト言われても困るだけだよね。
私は手の甲で涙を拭こうとした。その時。
ふわりと優しい感触が頬に触れた。
驚いて前を向くと、優しい表情のロボが身を乗り出して私の頬に手を伸ばしていた。
「なかないでよ、ニコ」
私の大好きなロボの長い指が涙を拭う。
そしてロボはゆっくりと話し出した。
「ニコはこれから色々な人と出会って、自分の世界を広げていくんだ。だから俺がいつまでもニコの傍にいたら、その可能性がなくなるかもしれない。だから・・・ニコに会えなかった」
悲しそうにそう話すロボの目に涙が浮かんでいた。
「でも一度たりともニコを忘れたことはなかったよ。本当は…」
頬に当てられたロボの手のひらがそっと離れる。
「ニコに会いたくて、会いたくてしかたなかったんだ」
ロボの顔が真っ赤に染まる。
きっと私の顔も真っ赤に染まって居るんだろう。
私は立ち上がるとロボの胸へと飛び込んだ。
もう離れたくない想いで、ロボの服を力一杯握りしめた。
ロボも私を優しく抱きしめると、小さな声で言ってくれた。
「俺も好きだよ、ニコ」
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