doramaちゃんねる★色声機械メインです
色声機械*62
ラブコール
「じゃあ須藤、明日から頼むなっ!」
そう言って部長は俺の肩を勢い良く叩いた。
「ただいまぁ~ックス・・・」
アパートの階段をなんとか登り、扉を開けた。
そのまま力尽きた様にヘタヘタ~と座り倒れた。
「おかえり、ロボ。・・・って、死にそうな顔だよ」
高校の制服の上にエプロンを着けたニコが台所から顔を出した。
「・・・に、ニコぉ~」
ニコの顔を見ていたら、会社での出来事が甦って来て涙が溢れた。
「エッ!? ロボ、どうしたの?!」
突然、目の前で泣き出した俺に慌てた様子のニコは側に寄るとしゃがんで俺の頭を撫で出した。
・・・どっちが子供だか解んないよなぁ。
なんて思いながらも、ニコに撫でて貰うのが嬉しくて。
だけど、やっぱり悲しくて。
「ロ~ボ~、どうしたの?仕事で失敗したの?」
余りに無反応さに顔をのぞき込んできた。
その仕草が可愛くて、腕を伸ばしてニコを抱き寄せた。
「きゃぁっ!な、なに!?」
「ごめんニコ・・・」
ニコの肩に顔を埋めたまま発した言葉。
普通なら聞取れないだろうその言葉は、耳が特別いいニコにはハッキリ聞えたはず。
「『ごめん』ってなに・・・」
埋めた肩が少し揺れた。
俺は顔を上げ、ニコを見ると不安げな表情をしていた。
「いや・・・たいした事じゃ、いや。違うか…」
「もうっ!何なのよ、一体」
痺れを切らしたニコが怒り出した。
「明日から出張になったんだよー!!」
「はい?」
キョトンとした顔のままニコが固まる。
「だから・・・明日から一ヵ月は帰れないんだ」
俺の言葉を聞くに従って、ニコの表情はみるみる泣きそうになった。
「ごめん、ニコ・・・」
見開いたままの瞳に涙が溜まる。
どうしたらその今にも溢れそうな涙を止められるか考えた俺はニコにキスをしようと顔を傾けた。
―――途端、
「う゛っ!!」
グイッと顎を押上げられ、変な声が漏れた。
「なにそれ。なんで謝るのさ、仕事ならしかたないじゃん」
泣きそうだったニコの顔がみるみる怒気に満ちてきた。
「仕方ないんだよ・・・ロボ」
ポツリと呟くニコ。
「でも寂しいよ、俺」
ニコの頬にそっと左手を添えた。
「私だって、同じだよ」
ニコの体温の高い手が重なる。
「一ヶ月か・・・長いよね。ロボとそんなに離れるの・・・あの時以来だね」
寂しそうに目を伏せると、長いまつげが揺れた。
ニコの言う『あの時』は、あの三ヶ月の後のこと。
いつの間にか離ればなれになっていたあの時。
「大丈夫だよ。俺、毎日電話もメールもするよ」
「・・・本当? フィギュア店巡りとかで私のこと放ったらかしにしない?」
「・・・・・・しない・・・・・と思う」
「おーもーうー!?」
途端ニコの顔が豹変した。
「うっ、うそですっっっ。しません、しませんーっっっ」
オロオロとニコにひたすら謝ると、ニコは吹き出して笑い出した。
「別に行ってもいいよ。でも仕事で行くんだからね。ちゃんとしてよね、ロボ」
そう言ってニコは押し入れからスーツケースを取り出した。
「ほら、明日からなんでしょ。早く用意しなきゃ」
「あ、うん」
ニコがタンスから俺の下着や着替えを出し始めた。
俺はそれをスーツケースへと入れていく。
「ロボ、寝る前に『おやすみ』って毎日電話してもいい?」
黙々と用意をしているとニコが不安そうな顔で俺を見ていた。
「ばっかだなー。当たり前じゃん。朝だってお昼だって電話するよ。ニコが『ウザイ』って思うくらいにね~」
そして親指で鼻の下を擦っていつものポーズを決めるとニコは笑った。
一ヶ月って長いかもしれない。
だからこそ。
電話越しでもいいからニコの声をずっとずっと耳元で聞きたいんだ。
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