須藤くんの恋人

色声機械＊６２



「ロボ･･･どうしよう」
ニコは今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げた。





須藤くんの恋人

事件の始まりは地蔵堂。
俺達は社長に呼び出されて、此所へ来た。

「来てくれて、ありがとう。――――ヨッチャン、例のアレ。出してちょうだい」
言われたヨッチャンが出してきたのは、箱。

「ケーキ？」

ニコが不思議な顔をしていた。
「店の近くにケーキ屋が出来たっつーんで、社長が行ったんだよ。そしたら、この人考えなしで買ってきて･･･」
なんて愚痴を言い出したヨッチャンは途中で『マズイッ！』って顔で、
「まぁ･･･余って捨てるのは勿体ないから食べて貰う為に呼んだんだなー･･･」
最後の方は社長の顔色を伺っていた。
「そうゆう訳なら、遠慮なく頂きます～♪」
ニコは早速、ケーキの箱を開けた。


「これ、おかわり頂いていいです？」
何個目かのケーキを半分食べ終えたニコがコーヒーのカップを指した。
「あぁ。オレが行くか」
「ううん、自分で行く」
ヨッチャンの申し出を断り、ニコが階段を下りて行く。それを見ていたら、突然社長の顔が目の前に現れた。

「うわぁっ！！」
「そんなに驚くことないじゃない。―――ケーキ美味しい？」
まだ心臓がバクバクしている。
「美味しいです、社長」
コーヒーが入ったカップを持ったニコが俺の代りに答えた。
「なら良かったわ。まだたくさんあるから食べてちょうだい」

･･･俺はもうギブアップする。

目の前のたくさんのケーキにうんざりした。



地蔵堂でケーキを食べて、それからニコと帰宅した。テレビを眺めつつ、気が付いたら2人して寝ていた。
暫くして起きた俺は隣りに居たはずのニコが居ないから、部屋を見回した。
だけど、全く姿が見えない。
「黙って帰る筈ないよなぁ～」
なんて言いつつ、玄関にあるニコの靴を確認した。
ある。ニコの靴は確かにあった。
「ニ～コ～？」
見当たらないニコを呼んだ。すると、
「ん～･･･ロボ？」
いつもの寝起きのニコの声がした。
振り返ると、俺は信じられない物を見た。

「に、に、に、に、ニコォォッ！！？」

そこには小さな小さなニコが座って居た。



「どうしよう…ロボ」
テーブルの上にマックスロボ。その隣にちょこんと座った同じサイズのニコ。
急いで買ってきたリリカちゃん人形の服を着たニコが泣き出しそうな顔で俺を見上げている。
この原因、俺には思い当たるのは一つしかない。
「地蔵堂へ行こう！」
俺はニコを胸ポケットに入れると、部屋を後にした。




「あらぁ、飲んじゃったの？」
地蔵堂に来て、真っ先に言われた言葉がこれだった。
「ヨッチャンがコーヒーと間違えたのね」
社長が呆れ顔をしていた。
「いやぁ、おっちょこちょいですね、俺」
なんて二人で呑気に笑い出した。
「笑ってる場合じゃないっ！！」
ニコが涙声で怒鳴った。流石に悪いと思った社長が、
「ごめんなさい、ニコ。元に戻す薬をすぐに取り寄せるわ。ただ･･･時間が掛かるわ」
「どれくらいですか？」
「そうねぇ･･･。ヨッチャン、あの薬はどれくらい掛かった？」
「そうっすねー･･･一か月は掛かったすね」
「い、一か月･･･」
それを聞いたニコはふらりと倒れそうになった。
俺が慌てて支えると、ニコは『ありがとう』と呟いた。
見ると顔が真っ青だ。
「もっと早く出来ないんですか！？」
あまりにもニコが可哀相で、俺は怒鳴る様に言った。
「坊やが焦るのは解るわ。だけど、それは無理なの」
いつもと違った真面目な表情で社長が言い放つ。
「でもこんな姿じゃ、家にも帰れない―――」
俺の指を掴んだままニコが立ち上がった。

「それは私がどうにかするわ」
社長が『ね？』とヨッチャンに同意を求める様に視線を移した。
「――だってさ、ニコ。それならいい？」
実際はいいわけないんだが、今はあの二人に任せるしかできない。ニコもそれを解っているのか、「じゃあ宜しくお願いします」と言っていた。

薬が届くまでどうするか？
答えは簡単に出た。
いや、出された。


「ロボのとこに居ていい？」
「貴方の家に居ればいいじゃない」


ニコと社長がほぼ同時だった。
「頑張れよ」
ヨッチャンが肩を叩いたのも同時だった。