doramaちゃんねる★色声機械メインです
真夏の恋人
「あれ?二階堂先生は…」
白衣姿の青年が分厚いファイルを手に、研究室に入るなり言った。
いつも二階堂真希がいるデスクは綺麗に整理され、その主が此所にいないことを告げていた。
「あぁ、二階堂先生なら屋上に行ったわよ」
研究室の別のデスクにいた女性が顕微鏡を覗いたまま言った。
おっとりとした真希とは真逆の少々・・・かなり怖い印象がある女性研究員だ。
「屋上・・・ですか?」
青年は少し考えるように視線を泳がせた。
そして正直言うとこの苦手な女性研究員から早く逃げ出したく、
「じゃあ行ってみます」
と、研究室を後にしようとした。その時。
「ちょっと待ってっ!!」
突然の大声による制止に青年は少しビクリと肩を震わせた。
自分が何か悪いことをしたのだろうか。
彼は瞬時に頭の中をフル回転させた。
――――が、思い当たる節は特になく。
青年はゆっくりと振り向いた。
いったい今度は何に対して怒られるのだろうかと考えながら。
「あなた、今年入ってきたばかりだったわね」
「・・・は、はい」
「じゃあ知らなくて当然だわ。今から言うことは覚えておきなさい」
彼女は顕微鏡から顔を上げ、研究室の窓から外を眺めた。
「毎年この日は彼女・・・亡くなった彼に会いに行くのよ」
静まりかえった研究室に女性の声がやけに大きく響いた。
青年は微動だにできず、ただただ、彼女を見つめていた。
「ここの屋上で思い出があるらしくて。毎年この日に、屋上へ行くのよ。だから知らず知らずにこの日は誰も屋上はおろか、非常階段へも誰も近寄らないようにしているのよ」
彼女はそう告げると、再び顕微鏡へと向かった。
「・・・・・では、明日また来ます」
何を言って良いのかすら分からなくなった彼は、ぼそぼそと喋ると研究室を後にした。
カラフルなパラソルが屋上の真ん中に置かれた。
その下に少しだけ日差しを避ける日陰が出来た。
「もう日焼けが怖い歳になっちゃたよ・・・L」
真希は広げたシートの上に今朝から用意した様々なお菓子を並べた。
そして自分の正面に幼いときから持っていたテディベアを置いた。
「L、いただきます」
テディベアに小さくお辞儀をすると、手元のドーナツを口にした。
「あのね、今日は朝からドキドキしちゃった。Lに逢えるって思ったら・・・」
恥ずかしそうにはにかみつつ、真希はテディベアの前にお菓子を置いた。
「この前ね、駿河さんに会ったよ。ニアは元気だって」
コポコポと心地いい音を立てて、ポットからアイスティをプラスチックのコップに注ぐ。
それから温かい紅茶も注ぎ、角砂糖をゆっくりと確かめるようにひとつ、またひとつと落とした。
「ねぇ・・・L」
視線は相変わらずコップに向けたまま。
「寂しいって思ったら、Lが心配するかな」
角砂糖が溶けきらない程入った紅茶をテディベアの前に置く。
真希は自分用のアイスティを一口飲み、“Lのいる場所”を見つめた。
「本当は・・・こんなこと言っちゃ駄目なんだよね。私だっていい大人なんだもの。
だけどね・・・時々無性にLに頭を撫でて欲しいの。そして、『よく頑張りましたね』って」
ポトリと滴が落ち、アイスティの表面を揺らした。
そして、いくつもいくつもの涙の粒が落ちていった。
「えるぅ・・・どうして居なくなっちゃったの・・・わたし、寂しいよ」
Lが亡くなったのを知らされたのは『その時』からだいぶ経過してからだった。
最初は何を言っているんだろうと理解が出来なかった。
「える・・・・」
彼の居る場所が涙で歪んみ、揺れた。
毎年この日に、この場所で必ず行うお茶会。
“もしかしたら・・・”
絶対あり得ない淡い期待をいつも抱いて。
あの真夏の数日間、
必死で自分を守ってくれたあの人を想って。
PHOTOby*RainDrop http://momo.raindrop.jp
PR
この記事にコメントする
無題
こんにちは!さっそく読ませていただきました!
真希ちゃん、切ないです(涙)頭を撫でて欲しいと願う心情に涙…。
真希ちゃんにとって、あの夏の事件は悪夢の出来事でもLと過した日々は、かけがえの無い宝物だったと思います♪
ロボ×のニコのお話も素敵でした!
わざわざ、「僕の恋人」と上司に走って訂正するロボがカッコイイです☆
素敵なお話を、いつもありがとうございます♪
真希ちゃん、切ないです(涙)頭を撫でて欲しいと願う心情に涙…。
真希ちゃんにとって、あの夏の事件は悪夢の出来事でもLと過した日々は、かけがえの無い宝物だったと思います♪
ロボ×のニコのお話も素敵でした!
わざわざ、「僕の恋人」と上司に走って訂正するロボがカッコイイです☆
素敵なお話を、いつもありがとうございます♪
康兵衛さま
こんばんわ、いつもありがとうございます。
康兵衛さまが仰るとおり、makiちゃん的には悪夢の出来事でしたがそれでもそれがきっかけで得た出会いもあるんですよね。
そんな中、全身全霊で自分を守ってくれる男の人がいて・・・恋に落ちないわけがないっ!!! ってズレちゃいましたが(;^ω^)
makiちゃんにとってLは永遠にヒーローなんですよ。だから時々寂しくて甘えたくなるんです・・・きっと。
6ボは・・・6ボなら平気で宣言するかなって思うんですよ。平然と。
そんな6ボが男前なんですよね~
康兵衛さまが仰るとおり、makiちゃん的には悪夢の出来事でしたがそれでもそれがきっかけで得た出会いもあるんですよね。
そんな中、全身全霊で自分を守ってくれる男の人がいて・・・恋に落ちないわけがないっ!!! ってズレちゃいましたが(;^ω^)
makiちゃんにとってLは永遠にヒーローなんですよ。だから時々寂しくて甘えたくなるんです・・・きっと。
6ボは・・・6ボなら平気で宣言するかなって思うんですよ。平然と。
そんな6ボが男前なんですよね~
(;△;)
あぁ゙――――――!!
切ない゙――――(ノ△T)!!
でもほんと、Lmakiッてこーゆーことだと思うんです(´;△q)!!
うぁッなんかエラそうですみません(汗)
でもなんか、これこそ私が思うLmakiだ!みたいに思っちゃったんです(>_<)
映画を見て、私はあの後マキちゃんは何も知らず、ただ目の前からいなくなったLを想い続けるんだ、と思ったんですが、死んだと知らされる、というのもまた違った切なさがありますねあぁ悲しい切ない(>△q)←
マキちゃんにとっては、たった夏の数日間というモノが、Lという存在によって温かい“光”になって、未来を照らしてるんですよね(;⊿;)
もちろん1人はどうしようもなく辛いけど…
Lはマキちゃんにとって絶対的な存在なんですよね…
なんか、なんか、ほんとありがとうございますぅッ(´□`)!!←
とにかくいつも2素晴らしい作品をどうもです∮
長文失礼しましたぁー!;
ふゆさま
こんばんわ、お返事遅くなりました。
こんな切ない話に色々と反応が返ってきて凄く驚いてるんです。正直自分で書いてて悲しくなって・・・でもふゆさんみたいに受け入れてくださる方がいて。書いて良かったなと本当に思います♪
Lはmakiちゃんに一番良い思い出として残っているんですよね。勿論Lにとっても。最後の素敵な記憶として・・・
それはそれで切ないですよね・・・
こんな切ない話に色々と反応が返ってきて凄く驚いてるんです。正直自分で書いてて悲しくなって・・・でもふゆさんみたいに受け入れてくださる方がいて。書いて良かったなと本当に思います♪
Lはmakiちゃんに一番良い思い出として残っているんですよね。勿論Lにとっても。最後の素敵な記憶として・・・
それはそれで切ないですよね・・・