偶には素直に・・・

ｙａスコとｋｅｎジ＊ｙａスコ→ｋｅｎジ


偶には素直に・・・

「こんにちわ～！」

元気よくヤスコがつばきフラワーの店内へと入っていく。
「あらヤスコちゃん、こんにちわ」
店内に入ると、ちょうど入り口近くにいたエリカに迎えられた。
「こんにちわ、エリカさん」
ペコリと頭を下げた。
「ん・・・何なんですか？それ」
よくよく見ればエリカはボードを持っていた。
「あぁ、これ？週末まで割引フェアやるから、その告知なの」
「へぇ～、フェアやるんですか」
エリカはそのボードを入り口のエントランスへ立てかけた。 
「なんのフェアなんですか？」
ヤスコは興味津津にエリカの立てたボードへ近寄った。


"Father's Day
感謝の気持ちと一緒に★
→全品20%ｵﾌ"


「ふぁ…ふぁ…？」
英語が苦手でなかなか読めないヤスコに、
「ファーザーズディ、父の日って意味よ」
苦笑いのエリカが助け船を出した。
「あはっ、あはは。ファーザーズディですか、あ～父の日なんですね～」
顔を赤くして、照れたように笑った。そして、
「・・・・ま、うちには関係ないですけどね」
「あら、そんなこと無いんじゃない？　感謝の気持ちを込めてだもの。別に父親だけじゃなくてもいいんじゃないかしら・・・って駄目かしら」
困ったように眉を寄せたエリカに、
「そんなこと無いです、素敵ですよっっ」
と頭を振った。
「いけないっ、注文の花束作らなきゃっ。・・・ヤスコちゃんごめんなさい」
そう言ってエリカは慌てて店内へと戻っていった。
その姿を見ていたヤスコの脳裏にエリカの言葉が残っていた。


別に父親だけじゃなくてもいいんじゃないかしら





「では総長、先に寝かせてもらいますっ。ご苦労様でしたっ」
締め切り明けの真夜中。
何とか仕上がった原稿。
ヘロヘロになりながら、モズとアジダスは自室へと戻っていった。
それを見送ったケンジはお茶でも飲むかと台所へ足を向けた。
途中通る中庭から見上げれば、ヤスコの部屋の明かりは既に消えていた。
極力音を立てないようにガラス戸を開け、台所へと続く居間へ上がり込む。

「なんだ、ありゃ」

薄暗い部屋の中、居間のテーブルの上に見慣れないものがあった。
目を凝らしてみると、それは小さい瓶と花。
それもたった一輪。
ケンジは訝しげにそれを手にした。
小さい瓶の方はコンビニでも見かけるポピュラーな栄養ドリンク。
花の方はヘタクソながらラッピングもされていた。
そして、花と一緒に小さな紙切れがリボンで括られていた。
ケンジはその紙切れを開いた。


“いつもありがとう。お兄ちゃん”



ケンジは栄養ドリンクの蓋を開けると一気に煽った。
そして花を手に、また仕事部屋へと戻っていった。