doramaちゃんねる★色声機械メインです
夏らしいお話を一つ。
*ニコ・中学生*
* 夏 の 一 瞬 *
「ったく、なんで迷うかなぁ」
助手席の窓から顔を出したまま、ぼやいた。
運転席でハンドルに頭を付けたままのロボは、
「反省してます…」
って嘆いた。
事の発端は社長からの頼まれ事だった。
ミカン箱サイズの木箱で黄色地に黒字で「危険」なんて書いてあるテープがこれでもかって位巻かれていて。
それを今日中にお客さんの元へ運んで欲しいって内容だった。
「こんな怪しいもの、ヨッチャンに頼んでください」
って断ったら、
「ヨッチャンね~、これとは比べものにならないくらい危険なものを取り行って貰ってるのよ。
…本人には教えてないけどね」
妖しげな笑みを浮かべる社長。
毎度のことながらヨッチャンに同情をしてしまう。
でもロボも私も社長には逆らえなくて。
結局引き受けてしまった。
荷物はすんなりと配達し終わった。
あまりの呆気なさに、
「どこかで遊んでく?」ロボがエンジンをかける前に言い出した。
「あ!いいね~それ。
ロボ詳しいの?この辺は」
「全然知らないよ~」
「なにそれ。ダメじゃん」
「ま、なんとかなるでしょー」
ロボはエンジンをかけ、勢い良く発進させた。
気が付くと私たちは山道のど真ん中で途方に暮れていた。
勢い良く発進したのは良かったけど、途中でロボが、
「こっちの方が近そう」
なんて言って…曲がったりしたもんだから。
どんどん山奥に入って行っちゃって。結果行き止まりだったり、車がギリギリ通れる山道だったり。
「お腹すいたなぁ」
迷子になってから何時間たったんだろう。
辺りは真っ暗で唯一木々の間から覗く月明かりだけ。街灯すらない。
携帯を開いて時計を見ると8時を過ぎたトコ。…そんなに経ってないじゃん。
「ロボ~…帰り道わかった?」
「…わかりません」
かなりヘコんだ様子。
「ま、朝になればなんとかなるよね」
可哀想なくらい落ち込んでるロボを慰めるように言った。
ハンドルから少し頭を上げチロリと向いた。
「ニコ…怒ってない?」
「怒ってないよ」
「ホントに~?」
「怒ってない」
「え~…ホントは怒ってるでしょ~」
「ロボしつこいっ!?」
一喝すると、
「怒ってるじゃん…」
と拗ねた顔でボヤいた。
まるで私が悪いみたいじゃない。
元々はロボが勝手に山道入ったのが原因なのに。
私は助手席の窓に張り付くように顔を寄せた。
すると突然、
「ニコッ!!今見た!?」
大声で叫んだ。
何事かと思ってロボを見れば、目を輝かせて嬉しいそうな表情。
「ど…どうしたのよ」
ロボは車から降りると何かを探し出した。
「幽霊とかならやめてよ~」
私も車から降りた。
相も変わらずロボは何かを探している。
「見えたっ!」
またまたロボが言った。
「だから、なにが~?」
ロボは私の手を引き、傍に寄せた。
「ニコ、ここから真っ直ぐ見てて」
言われた通り前を見た。
すると。
私たちの正面。ちょうど木々の切れ間から光が漏れた。
「花火?」
暫くすると再び赤や黄色の光が開いた。
「キレイ…」
すごく遠い距離で音は届かないけど、片手もない大きさだけど。
いつも見上げてばかりで真っ正面から見たのは初めてだった。
「花火ってさ、あの一瞬しかないものだから惹きつけられるんだよね」
「そうだね。結構儚いよなぁ~」
寂しそうに呟くロボ。
私は繋いだままの手を握り締めた。
「…ニコ?」
どうか…
どうかロボとは一瞬の、
儚いものではありませんように…
「キレイ…だね、ロボ」
「来年もニコと見れるといいなぁ」
曖昧な約束。
それでも私の希望になる。
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お盆には地元の諏訪の花火大会があります。
子供が怖がるので近くで見れないのです。
遠くで見る花火も綺麗なんですよ♪
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